ウッドベースをバンドで使おうとすると、音量の問題でピックアップ・アンプは必須になります。
もちろんアンプもアコースティックな特性のものがベターなのですが、それ以上にピックアップの種類によって音の傾向は大きく変わります。
私はこれまでMSPを含め3種類のピックアップを所持していました。
右も左も分からない状態で楽器店の店員さんに勧められて買った「Schertler STAT-B」と、
そのSTAT-Bであまりののハウリングに悩まされて買った「Underwood」と、
音質とコストパフォーマンスから近年とても評判が良い、愛知県犬山市発の純国産ピックアップ「MSP」の3種類です。
これら3種類のピックアップについて、同じ楽器・同じ機材でピックアップを交換し、サウンドの比較を行いました。
ピックアップを変えながら「DI経由でインターフェースに直接入力したライン音」と、
「アンプから出した音をマイクで拾った音」を2chで録音し、動画内でそれぞれ切り替えています。
DIは「Sansamp BassDriver DI」を100%クリーン・EQフラットで使用し、
楽器・アンプの音を拾うルームマイクは「SHURE SM58」を楽器・アンプから1.5mほど離してセットしました。
アンプはスタジオ常設のAmpeg SVT-450Hで、EQは全てセンターです。
まずUnderwood。駒のウイング部分に取り付けるピエゾピックアップです。
ラインだと独特の鼻づまり感というか、
箱鳴りがオミットされたようなエレキっぽさ…ソリッドボディのエレクトリックアップライトのような質感を感じます。
ウッドベース用ピックアップとして定番のFishman BP-100を代表とした、
駒の先端に付けるタイプで顕著になる「いわゆるピエゾらしい」カリカリ感はそこまで感じませんが、
それでもピエゾタイプの宿命としてインピーダンスマッチングに気をつけないと低音はゴッソリ削られてしまう(※)ので注意が必要です。
ちなみに今回使用したDIの入力インピーダンスは1MΩなので、
おおよそ一般的なハイ受けの値かと思います。
※ペダルエフェクターやレコーダーによっては入力インピーダンスが数百Ω〜数百kΩ程度と低いものがあり、
ピエゾピックアップを直接接続して使用すると音が痩せてしまうことがあります。
前述のFishmanから出しているウッドベース用プリアンプ(PRO-EQ Platinum BASS)の入力インピーダンスは10MΩと超ハイインピーダンス入力です。
つまりメーカーとして「BP-100を使うならこれくらい高い入力インピーダンスで使ってね」ということなのだと思います。
次にSchertler。これはコンデンサマイクだけあって本当に高域が伸びます。
おそらく駒のホールとしっかりフィットさせれば、もっとボトムも含めてフルレンジで綺麗に出力できるのでしょうが、
駒の構造上、よい音を拾えるセッティングを追い込むのは中々シビアです。
すこし角度が変わったりぐらついたりすると、とたんにカリカリキンキンとしたハウリングの嵐に見舞われます。
駆動用電源付きの専用プリアンプが付いてるので、インピーダンスに気を使わなくてすむのは嬉しいポイントです。
プリアンプの性能もとても良いので、単体でエレキベースのバッファ・ブースターとしても使えます。
ちなみに、Underwoodとアンプのセッティングを変えずにいると、プリアンプのゲイン12時くらいで高域でハウリングが発生します。
アンプからの音量はそこまで出ていないのですが…高感度が裏目に出た形でしょうか。
3つ目が今回のメイン、MSP。取り付け位置をE弦側とG弦側で変えて比較してみました。
ピエゾ素子を強力な磁石で挟むことで、楽器を問わず取付が出来るという製品。
この磁石が本当に強力で、指を挟むと痛いし、一度くっつくと外すのに一苦労するほどです。
しかしその強力な磁石のおかげで、ピエゾの弱点である低出力をカバーし、余計な共振も防いでくれるというアイデア。
この仕組みが日本発というのはなんだか嬉しく思います。
なお、これもピエゾタイプなので接続先はハイインピーダンス入力にしてあげる必要があります。
出音はそのままズバリ、生音…取り付けた表板の振動をそのまま増幅したようなイメージです。
ただし、埋め込み式や接着式ではなく磁石で挟み込む方式なので、取り付け位置は簡単に変えられます。
つまり、取り付ける位置によって音質も音量もガラリと変わります。
(動かすときはピックアップから接続しているアンプやレコーダーをOFFにしないと爆音が出ますので要注意です!)
先の動画でも取り付け位置によって結構音質が変わっていますね。
というわけで、取り付け位置をさらに色々変えながら弾いてみたのがこちらです。
おおよその取り付け位置を図中の黄色い丸印で示しています。
(再度、演奏の拙さはご勘弁ください。。)
取り付け位置で音質・音量がかなり変わるのがお分かりいただけると思います。
なお、アンプのゲインはセッティング毎にハウリングが起こらないレベルに調節しています。
実は自分で試すより先に先輩ベーシストにお貸ししていたのですが、
その方の感想としては「音量上げるとやっぱりハウリングが起きちゃうけど、音は柔らかくて、生音に少し足すような用途だといい感じだね。Fishmanあたりのアタックが出るピックアップとブレンドするとちょうど良さそう」とのことでした。
この時はE弦側のFホールから中央に向けて斜め下あたりに取り付けていたので、
表板が一番鳴る=一番ハウりやすいポジションだったかもしれません。
出来るだけハウリングが少なくてアンプからの音量を上げられそうなポジションを探ってみたところ、E線側のバスバー付近、もしくはG線側の駒の下あたりがよさそうでした。
あとは磁石を追加して圧着力を高める&質量を稼ぐのもハウリング対策には有効だと思います。
(動画内では試していませんが、同様に表板に取り付けるSchertler DYN-Bをセッティングするポジションや、駒の脚の間のポジションも、今度試してみたいと思います)
今回はベース一本で録りましたが、バンド内で使うことを考えると箱鳴りのダブつきはある程度制御したいので、
固めの音が出せそうな場所を分かっておくと使いやすいと思います。
後段でイコライザーを置いて補正することを考えても、ピックアップ単体で音質のコントロールが出来るのは大きな利点だと思います。
また、他の楽器との混ざりを考えなくてよいレコーディングや独奏であれば、
よく鳴るポジションに取り付けることで「本当に生音が大きくなったような」柔らかく温かい音を出すことも出来ます。
このように、セッティングを追い込んでいく楽しさもあるし、出音もいい。
信頼性が高くメンテナンスがしやすいのはもちろんですが、弾いていて楽しい、
工夫しながら音の変化を楽しめるという意味でMSPは素晴らしい「楽器」だと思いました。
とにかく、すごく「使っていて楽しい」製品だと思います。
これからも長く付き合っていきたいと思わせてくれる製品に巡り会えました。
MSP、オススメです。
*2016年7月にkamehiroさんよりいただいたコメント。*